【イベントレポート】先進事例から見るDX推進のための採用活動とは?日経電子版の急成長を支えたデジタル人材採用の変遷に迫る

2020年7月21日(木)にHERP主催でウェビナー形式にて開催。
モデレーターは、「すべての経済活動を、デジタル化する」をミッションに掲げる株式会社LayerXの取締役である石黒さんと、「日本の採用2.0を実現する」をミッションに掲げる株式会社HERP代表庄田が務めました。
イベント概要
近年、耳にすることが多くなった「デジタル化(デジタライゼーション/デジタルトランスフォーメンション)」。本イベントでは、株式会社日本経済新聞社より日経電子版の急成長とエンジニア採用を推進してきた髙安さんをお招きし、同事業の成長を支えてきたデジタル人材採用の変遷について語っていただきました。
第一部:DXの必要性が一層叫ばれることで、働く人・採用活動に起きている変化とは
リモート化の急進が後押し、大手企業におけるDXを実現するのは「デジタル人材」
主催のHERPからは、まず今回のセミナーのテーマの背景からご説明できればと思います。
大企業の採用活動はここ数十年で大きく変わっていると言えます。どうして変化が起きているのか、その背景には3つの理由があると考えています。
「事業環境の変化」
ITサービスの興隆や新規事業の立ち上げがライトに行われるようになるなど、ここ20-30年で事業づくりのルールは大きく変わっていきました。日本企業の発展のためには、今後さらにIT化を推し進めDX化していくことが求められているのではないかと思います。
「職種の専門性の向上」
事業環境が変化した先には、その事業をつくる「働く人」にも変化が起きます。特にITサービスを扱う事業の職種は、職種数が多く専門性が高いという特徴があります。少し前まで「営業」と一括りに言われていた職種は、今では「インサイドセールス」「フィールドセールス」「アカウントエグゼクティブ」などたくさんの職種に分れていますよね。
「働き方の変化」
直近リモートワークを取り入れる企業が増えていますし、ヤフーなど大企業でも大量の副業を募集するニュースが話題になりました。個人の働き方が多様化に合わせて、日本企業の働き方への取り組みもどんどん進化しています。
こうした背景から、日本の採用は根本的な転換、つまり新卒の一括採用・終身雇用・ジョブローテーションを前提とした「メンバーシップ型」の採用から仕事内容に応じた人材採用を行う「ジョブ型」採用への転換が求められています。
これまでの常識が通じない?「デジタル人材」採用へ向けた典型的な課題
「ジョブ型」採用への転換が必要になるのは、まさに今回のテーマでもある「デジタル人材」の採用です。
しかし、「ジョブ型採用でいざデジタル人材を採用しよう」と思っても、誰しも次の課題にぶつかるのではないでしょうか。
課題①:既存の採用活動と分離して新たな採用活動を始めなければならない
社内のカルチャーや採用手法の伝統がある中で、ジョブ型採用は“異物”を取り込むようなイメージかと思います。
人事部を主体とした画一的な採用フローでは専門性の高い人材の採用が難しいため、いかに全く別のもの・こととして独自のフロー・権限を持って施策を動かすことができるかが鍵になります。
課題②:対象となる人材の理解が難しい
採用活動では採用ターゲットを定義して自社との適合の判断やポジションの魅力を伝えることが必要ですが、これまで社内にいない人材を採用するため、人事の方だけでは専門性の高い職種の理解・職種の人材要件定義が難しいと思います。専門性ごとの違いの理解が浅いままでは採用の成功は困難ですよね。
大企業にとって“異物”のデジタル採用を推進するポイントとは
このような課題がある中、デジタル人材の採用においては、次の4つのステップが大事ではないかとHERPでは考えています。
「有効応募数の向上」「候補者体験の向上」「見極め精度の向上」「入社後活躍の早期化」
ジョブ型・職種ごとの採用を、そのポジションに理解のある現場メンバーが主体的に採用参加するように巻き込んでいく。データに基づいて施策を練っていくことが大事だと思います。
第二部:事業部主導でスクラム採用を実現、日本経済新聞デジタル事業の変革に迫る
日経の未来を担う電子版ユーザーへ高い品質でサービスを提供すべく開発内製化へ。日経の未来を担う電子版の開発チームとは
日経電子版の歴史についてお話しします。
1972年|世界初の新聞制作システムを開発
1984年|データベースサービス「日経テレコン」開始
1996年|NIKKEINET(日経電子版の前身)開始
英文記者出身の人がVBで作ったCMSが使われるなど内製していた
属人的な開発体制ということもあり、徐々に外注に変わっていった
2010年|日経電子版創刊
大手SIerがたくさん入って開発
日経電子版の前身であるNIKKEINETは最初内製開発されていました。その後徐々に外注に変わっていきましたが、根底にある主体的にサービスを改善していくという価値観はこの頃から変わっていないと感じます。
日経電子版の創刊当時は、大手SIerへの請負開発をしていました。しかし、やりたいことがたくさんあっても、開発が請負であれば、契約の都合でちょっとした改善にも時間とお金がかかってしまいます。そのことに課題感を持ったメンバーが、複数の有志のメンバーを巻き込んで一部の機能の開発を自分たちで始めたことで、内製化へと舵を切っていくことになりました。
内製化初期にはさまざまな案がボツになるなどの紆余曲折がありましたが、2013年には内製開発したスマホブラウザ版を公開でき、この頃からさらに内製化の機運が高まっていきました。その後、よりユーザーに近いスマホアプリやフロントエンドなどから順に内製化を推進していきました。
DXをしようと思って進めていったのではなく、既存の紙媒体での事業が市場縮小する中で、デジタルでいいサービスを届けたいという必然から変化し続けてきたのが日経電子版という事業です。
現在の開発チーム体制は、GitHubにコミットしている業務委託など含め全体で約80名で、そのうち社員が50名、内製化比率は60%ほどになっています。社内コミュニケーションには、こちらも現場メンバーの選定で本社とは独立してslackを利用するなど、モダンな開発環境にアップデートを進めています。そのほか、システムごと・職能ごとに下記のように開発チームが分かれているほか、事業横断型のOKRチームがあり、実態としてはマトリクス型組織になっています。
成功への一歩は人事部からの『独立採用』。踏み切った理由と高まった採用成果
開発内製化を進める中で重要度が急激に高まったのは、やはりサービスづくりに欠かせない「エンジニア・デザイナーの採用」でした。
弊社では人事部が全社の採用活動を行なっていますが、日経電子版を開発するデジタル編成ユニットでは、現場の開発メンバーによって独自の採用手法・採用フローで採用活動を推進していきました。
例えば、現場メンバーによる選考は、これまでの選考フローに技術面接・デジタル編成ユニットに属する部長面談などを追加して進めています。
完全に採用機能が独立している訳ではなく、「日本経済新聞社」に入社する人としてふさわしい方なのかどうかの判断はこれまで通り人事部にお願いしています。日経電子版の採用チームから人事へ事業部側だけでは解決できない採用上の課題を定期的に共有するなどの改善提案を行う関係性です。
現場主体で始まった採用活動は、内製化に取り組み始めた2012年に開始しました。当時は効果的な採用方法が分からないまま細々と活動を進めながらも、エンジニア・デザイナーで1名ずつキャリア採用をしました。ターニングポイントになったのは、2013年にインターンの受け入れから新卒エンジニアを採用したことです。この新卒のエンジニアの方が非常に優秀で、内製化の推進力にもなりつつ、新卒のリファラル採用も積極的に協力してくれたことで、採用活動の土壌ができました。
その後、リファラルやエージェントを中心に年に4人前後の採用を実施。募集ポジションが拡大していく中で、開発業務と兼務している有志のメンバーによる採用活動では、リソース的に限界を迎えたことから、2019年にエンジニア採用チームを発足しました。エンジニア採用チームは、エンジニア採用担当+各開発チームリーダーで構成されており、チームリーダーは主に媒体でのスカウト送付や面接を行なっています。
現在は各チームごとに募集しており、計12ポジションで採用活動を行なっています。多くのポジションで採用しようとすると、採用をチーム体制にしただけでは解決しない課題、例えば、リソース不足により集客施策量が少ないという量の問題、効率よく転職意欲の高いターゲットにアプローチできていないという質の課題などが出てきました。
より効果的に採用活動を推進するべく、今年の3月からHERP社とともに改善のプロジェクトを進めています。HERP社はエンジニア採用知見をもちながら、弊社のような現場主導の採用活動を支える採用管理システムを提供されているとのことで、自社の課題解決するのにベストパートナーなのではないかと考えました。
(日本経済新聞社で募集中のポジション一覧はこちら)
ここから、対応策の具体的な内容もお伝えしたいと思います。
まずは、採用管理プラットフォームの「HERP Hire」を導入し、以前のスプレッドシートでの管理から脱却しました。これが業務効率化の観点では一番大きかったと思います。スプレッドシートでの管理では、煩雑なエントリーの登録業務・ステータス変更忘れ、シートの編集履歴を参照しながらの高度なデータ分析…という運用にかなりの負荷がかかり施策実行の時間を失っていました。
HERP導入後は、媒体に応募があれば自動で応募情報が一元管理がされ、散らばっていたファイルデータも辿りやすくなりました。進捗は全てHERPに記入し、slackで通知されるので、エンジニアの採用担当者がチームリーダーにいちいち状況を聞きに行かなくても、採用状況が一目でわかりコミュニケーションがよりスムーズになる効果がありました。諸々の改善活動は、「HERP Hire」に蓄積された選考データからデータドリブンで行えるようになったことも大きな変化でした。可視化された採用状況の進捗から各施策の効果を確認しています。
質をあげる活動では、よりターゲットに合った方を採用すべく、ペルソナの練り直しを実施しました。人材要件を詳細化したのち、スカウトの候補者リストをリストアップし、果たしてその人がターゲットなのかどうかの判断を皆で行なったことは、要件のさらなる精緻化に効果をもたらしたと感じます。これまで暗黙知になっていた人材要件が言語化され、目線を合わせた上でのジャッジが可能になりましたし、求人票のアップデートにも繋がりました。
DXが加速しデジタル人材の採用が激化する中では、現場メンバーを巻き込んだ採用活動へのアップデートが必要
開発内製化も、エンジニア採用も現場メンバーが主体的に始めたもので、「DXしなければ!」という意識によってなされたものではありません。事業を育てていくために、新聞紙->電子版->内製化->エンジニア採用という流れで、事業を常にアップデートし続けるというDXが起きたにすぎないのです。
エンジニア組織のパフォーマンスは、いかに優秀なエンジニアに来てもらって高いモチベーションを感じて活躍もらうかが重要です。DXが世の中で加速する中で、デジタル人材の採用競争は激しくなっており、10名採用するだけでもなかなかに苦労しています。激化する採用のなかで、いかに現場のメンバーを巻き込んで継続的な採用施策の磨き込みに取り組めるかが、採用成功の鍵になっていくと思っています。
第三部:パネルディスカッション
DX支援のLayerX・DX先進企業の日経電子版からみた「DX」とは
石黒さん:失敗をコントロールしながら前に進むことだと思います。「トランスフォメーション」なので失敗は必ずついてくるものです。リカバリープランを用意しつつ、失敗によるダメージを出来るだけ小さくし、継続的に挑戦するということではないでしょうか。
DXによって事業が加速することを約束するものではないですが、この「継続的に挑戦する」という活動が企業文化にとって非常に良い土壌になると思います。日本経済新聞社のように、事業部発でトライアンドエラーを重ねながら採用活動全般のDXに取り組まれていることは、人事側の人間としては理想的なことだと感銘を受けますね。
庄田さん:先進事例として取り上げられることが多い日本経済新聞社ですが、社内での印象はどうですか?
髙安さん:弊社では、全社的なDX推進のための「DX推進室」を設けて全社的に取り組みを行っています。「日経電子版」は「事業のDX」として社内でも先進的に取り組んできた方だと思います。あくまでDXは事業成長のための一手段として捉えており、戦略を立てて優先度の高いところから進めていくことになると思います。何でもかんでもDXすればいいというものでもなさそうだという見解でいます。
石黒さん:採用活動のDXの話になると、「3万人の面接データからAIが面接」なんていう話もありますが、「それで決めていいのか?」というのはやはり人が考えるべきところです。例えば、昨年の採用での教師データを使って果たして今年も採用したいか?といえば、外部環境の変化もあるので人事担当がどう変数を取り入れるか、などの判断は必要だと思います。確かに全てをDXDX言うのは少し違いますよね。
バズワード化する「DX」。DXした次の段階に待ち受けるものとは?
石黒さん:DXとはあくまでも成長するための一手段にすぎない、と考えています。そもそもDXというのは段階的に進行していくものです。技術の進展によってDXの可能性は加速度的に広がっていきますが、まずは世の中の水準に足並みを揃えたり、部分的に実績を作らないと、社内外ともに”ついていけないこと”が多い印象です。業績に資する手法や個社に合う手法を確立した上で進めていく必要がありそうですね。
DX化に必要なデジタル人材採用の要は「変化を楽しめるかどうか」
庄田さん:DX人材を採用する上で、どのような点が重要になるとお考えですか?
髙安さん:結局は「人」だという側面が強いと感じます。例えば、優秀な人が優秀な人を呼びこんでくれるので、DXに限らず、採用は社内の人がまず第一に重要だと思います。
また、いろんな方と面談・面接をしていると、人のキャリアチェンジのモチベーションは十人十色なので、多様な人に魅力に感じてもらえるようなキャパシティを自社で持っておくことで、さまざまなキャラクターを有する優秀な方に入社してもらえるのではないかと思います。日経は文化的に現場の裁量が大きく、やりたいことを思う存分できる環境にあるのでは、と考えています。
石黒さん:「トランスフォーム」というくらいなので、やはり変化することを楽しめることが重要だと思います。日本経済新聞さんのユーザーさんが「サービスが快適だ」と思うことも一つの変化ですし、その中のサービスを作っている側がアウトプットを磨いていくということも、全て楽しむべきトランスフォーメーションです。どうせならこの一大変化を楽しめる人を見つけるというのが重要で、あまり斜に構えたり難しく考えすぎたりしなくてもいいかもしれないですね。
庄田さん:DXは完全にバズワード化していますが、DXだからどうってことはなく、会社を変えることに楽しさを見いだせる人へPRしていくのが大切そうですね。
まとめ
今回のイベントでは、DX先駆者である日本経済新聞社さま・LayerXさまに、DX推進や事業成長を支えるデジタル人材採用について語っていただきました。
バズワード化するDXですが、DXを目的とするのではなく、事業や組織の成長のために必要な手段と捉え、その変化を楽しんでいくことが重要であるという強いメッセージをお二方からいただきました。激化するデジタル人材の採用においても同様に、「デジタル人材」だから採用するのではなく「事業の成長を共に楽しみながら推進してくれる人」を採用するのが目的に当たります。そのなかで、特にデジタル人材は専門性も高いため、各社のそのポジションの魅力を引き出せるよう現場メンバーを巻き込んだ採用活動を行なっていくことが有効だと言えるでしょう。
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